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silentphase.com ; Exhibition 個展作品
ねえ
愛しいひとよ
どうか信じて
僕は キミを
傷つけたりなんかしない
窓の外を見れば
いろんなものが見える

窓の中を見ると
いろんな人たちがいる

なにやら妙だ
どこか様子がおかしい
黄昏の河岸を歩くうち
キミはカーニバルの灯を見つけ
魔法のような 
その光景へと静かに近づく

凧がひとつ消えた 赤橙色の空
キミにあげよう 
そよ風の王子の瞳に輝いていた
黄金の林檎と
ルビーでできた葡萄を

輝く滝の結晶は
ハープシコードの調べにのって
足跡ひとつない海岸の砂浜で
躍っていた

白い象牙の王座
白いレースの王衣は
時間が存在しない場所に
静かに眠っている

100人の幼い子どもたちは
彼らの手にとまって 
愛をもたらす
白い鳩を見て笑う

ベルベットの丘の中腹で
寝転がる子どもたちは
愚かなしかめ面の
大人たちをからかう

子どもたちの笑い声は
緑の海の音楽となって
貝殻の木の根元を
洗っていく

僕の剣は折れ
湖へと投げ込まれた

夢の中で 僕は聞いた
彼女が目覚めるだろうと

子どもたちは 手をとり
彼女の名前を綴り
黄金色の鎖になった
ゴールデン・チルドレンよ
王国にあふれている
悲しみを
遠くへやるのだ
太陽の光に従って
花咲く谷を進み
白い翡翠の塔の立つ
白い女王の宮殿を目指せばよい

----魔法使いたちは言う
ウィステリア荘の記憶
いちばん小さな女の子の吐息で
雲は引き裂かれ
百もの小さな指が
狼狽えた 彼らの頭を
かきむしった
地球がまるいから
僕は心を奪われるんだ
だって 地球がまるいから

風が激しく吹くから
僕の心も吹き飛ばされそうだ
だって 風が激しく吹くから

愛は古くて 愛は新しい
愛はすべて 愛はキミだ

空が青いから
僕は涙が出そうなんだ
だって 空が青いんだもの

夜がくる
けれど こんどは違った夜だ
歩を進めるキミの足は
ほとんど草にも触れないようだ

キミは僕を信じている
蛾の群れが 
僕の白熱した頭にぶつかって
風の音をたてる

風が吹きやむと
ふたたび 朝
起きよう
天国のような荒涼たる地に
足を踏み入れる時だ
ほら、太陽が
太陽が 顔を 出したよ
若い王子
草原の中を歩いていると
草が僕らの足を傷つける

キミは 十三歳の子どもで
ぶかぶかの男物のスーツを
羽織っているのは
二人がどれほど長く一緒にいるか
という“しるし”だ

The Young Prince and The Young Princess
若い王子と若い王女


2009年5月8日〜5月20日に行われたビリケンギャラリーでの個展作品の一部。
これらの作品は、ジョン・アシュベリーの詩『若い王子と若い王女』から触発されて出てきたイメージを、ドノヴァンやビートルズなどの曲で紡いだもの。
さらには、制作時に読んでいたシャーロック・ホームズの短編集も、この作品群の中にささやかではありますが、流れていると思います。

『若い王子と若い王女』という詩を頭の中でフワフワと浮かべている時に、バックグラウンド・ミュージックが流れ込んできたことで、それまでぼんやりしていた感情や匂いのようなものが急にはっきりとして動き出すような感じがしました。起承転結というものはないけれど、
一つの物語の中を漂うような気持ちで描いた絵たちです。

 

                                       植田真